今回レビューするのは「パリ・テキサス」です。1984年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した作品で、ドイツの映画監督ヴィム・ヴェンダースの代表作の一つです。特別な撮影技法というよりも、風景と人間の感情が詩のように重なり合っている。この映画が名作と呼ばれる理由はそこにあると思っています。私がいいなと感じたいくつかの点に着目してレビューをします。
映画全体が絵になる美しさ
まず映画全体が美しいです。どのシーンも絵になります。荒れ果てたモーテル、広大な砂漠、入り組んだ高速道路。ドイツ人監督がずっと憧れていたアメリカの風景なんでしょうね。私もこの風景に見入りました。スローなテンポも相まって、見ていてうっとりします。
主人公トラヴィスという名前
主人公の名前トラヴィスは、交差点や曲がり角の近くに住む人、通行料の徴収人を指す職業姓だそうです。ロードムービーの主人公の名前としてこれ以上ないくらいぴったりな名前だと思いました。トラヴィスという名前が使われた他のロードムービーとしてタクシードライバーも挙げられますね。悩みを抱えたドライバーの男性という点ではパリテキサスと類似していますね。
自己のアイデンティティーを追求する旅
この物語は、過去の恋人が忘れられない主人公が、元恋人と再会しようとして自分のアイデンティティーを取り戻そうとする話です。車で旅をしながら自己を追求するというコンセプトがとても好きです。誰しもが一度は考えたことのある悩みなので、共感できる人は多いでしょう。
スマートフォンもインターネットも存在しない時代だからこそ、探していた人と巡り会ったときの感動はより大きかったはずです。
ラストシーンで感じた違和感
一点だけ正直に書くと、ラストで元恋人とガラス越しに再会するシーンで私の頭の中と主人公の考えに違いがあるように感じてしまい、一瞬だけ映画から気持ちが離れてしまいました。私が未熟だったのか、それともヴェンダースの意図と私の感覚が合わなかっただけなのか。ですが映画としての価値を下げるような欠点ではないと思っています。むしろそれまで映画の世界に完全に入り込むことができたからこそ生じた違和感だと思っています。否定的な意見ではありますが、私の正直な感想として書き残しておきます。
技術的ではなく詩的な映画
この映画は特別な撮影技法はあまり使われていませんでした。それでもこの映画を傑作にしているのは、家族愛、美しい風景、車と旅、誠実だけれど欠点もある主人公の人間性だと思っています。
ヴェンダースは小津安二郎を崇拝していることで知られています。その影響からか、映画全体に穏やかさが漂っています。技術的な映画ではなく詩的な映画と感じたのはそういう理由からです。
まとめ
パリ・テキサスは派手さのない映画ですが、見終わった後にじわじわと残るものがあります。ただ正直に言うと、主人公の感情に共感できない人やその風景を特別美しいと感じない人にとっては、長く退屈に感じる映画でもあると思います。しかし、美しい風景と穏やかなストーリー展開に、誰もが抱えたことのある孤独と家族への思いがしっかり描かれています。これらが好きな人にとっては比類のない映画になると思います。
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