今回はこのブログで最初となる、一つの映画をレビューする記事です。ウォン・カーウァイ監督の『花様年華』の鑑賞記録を書きます。この映画は英国映画協会が2022年に発表した史上最高の映画ランキングで5位に選ばれた作品です。
1962年の香港を舞台に、隣同士に住む男女の秘めた感情を描いた作品です。ストーリーとしては規模が小さく、知り合いにはどう見ればいいのかわからなかったという人もいました。恋愛映画を楽しみたいと思っていざ鑑賞するとなると何か腑に落ちないという結果になると思います。私はこの映画を「映画愛好家向けの映画」だと思っています。ストーリーをどう感じるかではなく、映画としての遊び心が詰まった映画の教科書のような作品です。今回は私がこの映画でいいなと思ったいくつかの演出を紹介します。
言葉ではなく映像で語る二人の演技
この映画が成立している最大の理由の一つはトニー・レオンとマギー・チャンの演技です。台詞で感情を説明するのではなく、表情や仕草、視線だけで二人の複雑な感情が伝わってきます。言葉ではなく映像で語るという映画の理想が、二人の演技によって実現されています。
音楽と歌詞が語る心の揺れ
音楽のチョイスも見事です。特に印象的なのが、映画内のラジオから曲が流れるシーンです。夫婦の様子をうたったその歌詞が、ストーリー上の二人の心の揺れを見事に表現しています。一緒になりたい気持ち、複雑な事情で一緒にいられない寂しさ、恋人にそっぽを向かれている虚しさ。歌詞とたった一つの壁に隔てられた二人の場面でその全てがひしひしと伝わってきます。見ていて苦しくなりますが、そういう細かな演出を見ることが好きな私にとって、たまらなく面白いです。
電話が生む緊張感
この映画では電話がよく使われます。電話相手が誰だかわからない状態でストーリーが進んだり、電話を三回鳴らすというちょっとした日常的な行動にも「どうなるのだろう」という緊張感が生まれます。説明しない演出がここでも効いています。
スローモーションの使い方
スローモーションの使い方も印象的です。特に心に残ったのは、トニーがマギーの手を離した瞬間にほんのわずかスローがかかる場面です。おそらく何フレームかずらしたレイヤーを重ねた映像だと思いますが、その一瞬に寂しさが凝縮されています。ウォンは別作品でもこの演出をよく使っています。
まとめ
花様年華はストーリーよりも映画としての演出を楽しむ映画愛好家向けの作品です。今回紹介した演出の他にもたくさんの工夫が見受けられます。最初は地味に感じるかもしれませんが、演技と音楽と映像が重なる瞬間に、この映画にしかない緊張感が生まれます。ウォンによる他の作品では見かけない細かな演出が多くの批評家や映画監督に影響を与えているのも頷けます。私もこの映画が大好きで、史上最高の映画のベスト100に入ることに納得しています。それにしても長い映画歴史から見て、比較的新しい映画である本作が5位に位置づけられるのはすごいですね。映画全体を通してこれほど繊細な遊び心を感じられる映画はなかなか見ないので、ぜひ見てほしい一本です。
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