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  • 映画レビュー #5「地獄の逃避行」-夢見心地のロードムービー

    テレンス・マリック監督の長編デビュー作。1970年代のアメリカを舞台に、若い男女が逃避行を続けるロードムービーです。派手なアクションがある映画ではなく、もっとミニマルで内面的な部分に焦点を当てた映画です。人によっては物足りなさを感じるかもしれませんが、私にはほかに類を見ないほどの素敵な映画体験ができました。

    主人公が突発的な行動をとることもいくつかありましたが、それも不思議と受け入れながら観ることができました。この映画を一言で表すなら夢を見ているような映画です。

    夢のような浮遊感の正体

    やっていることは連続殺人というシリアスな内容ですが、映画全体を通して不思議と現実感がありません。ホリーの淡々としたナレーション、圧倒的に美しい映像、子供っぽくおだやかな音楽。これらが合わさって独特の浮遊感を生み出しています。

    特に夕方の砂漠で黄昏るシーンは、現実に存在するのか疑うほどの美しさがありました。

    またクライマックス以外では二人に対する脅威がほとんどなく、物事がすべてうまくいくような都合のいい展開が続きます。この都合のよさもまた夢っぽさを強めています。監督が派手なアクションを撮りたいわけではないことがよくわかります。

    音楽の選択センス

    音楽のチョイスも印象的です。歯医者さんで流れるような、場を和ませるおだやかな音楽が連続殺人鬼である二人の日常に流れています。このギャップが絶妙にマッチしていて、映画全体の夢のような雰囲気をさらに強めています。

    二人の子供っぽさ

    主人公のキットとホリーは精神的に未熟で、世界の主人公が自分たちだと錯覚しているように見えます。ごみ処理の仕事をしている男性と、学校では地味でおとなしい女の子という設定も、完全に成熟した愛ではない二人の未熟さを感じさせます。殺人への罪悪感がほとんど感じられないのも、そういう内面の表れだと思います。共感するのは難しいですが、その非現実的な感覚がこの映画の魅力でもあります。

    夢から現実へ

    しかしクライマックスになり、いざ追われる身になると、ホリーが主人公の世界に急速に冷め切ってしまい降参してしまいます。最終的に主人公は一人で逃げますがあっさり降参してしまいます。このあっけなさが、二人を一気に夢から現実に引き戻してる感じがあって最高でした。

    まとめ

    地獄の逃避行は夢を見るような体験を楽しむ映画だと思っています。美しい映像と淡々としたナレーション、そして絶妙な音楽の選択が合わさって、見ている間ずっと不思議な夢の中にいるような感覚を与えてくれます。本当に素晴らしい映画です。

  • 映画レビュー #4「ブルーベルベット」-奇妙さの裏にある知性と理性

    デヴィッド・リンチの作品はどれも世界観が強烈で個性的ですが、私にとって一番リンチらしいと感じる作品がこの「ブルーベルベット」です。私が映画に求めている大好きな要素がふんだんに詰め込まれた映画です。笑ってしまうくらい変なシーンが多い映画ですが、それと同時に知性も感じさせます。

    どうして奇妙に感じる?

    この映画はなぜ奇妙に感じるのか、私なりに考えた要因は「ギャップ」です。白いフェンス、学生とその両親、青々とした芝生、女性歌手、のどかな田舎町。それらが平和を象徴しています。しかしこの映画では、その正反対の奇妙さを暴力、ギャング、虫、性などで表現し、平和との落差を生み出しています。

    このギャップをうまく活用している映画はたまに見かけます。でもブルーベルベットは、リンチにしかできない演出が合わさって、この映画を特別なものにしています。そしてその演出は過剰すぎない絶妙なバランスを保っているように思います。このバランス感覚が二流にとどまらない評価を得ている理由でしょう。個人的に印象に残った演出を二つ紹介します。

    かゆいところに手が届かない不快感

    映画の冒頭で主人公の父親が庭で水やりをしていたところ突然倒れるシーンがあります。ホースが植物に絡まって思うようにいかない様子、倒れこむときに着ている真っ白なシャツが泥だらけになってしまう様子、苦しそうにしているときに助けてくれる人はおらず、赤ん坊やホースから出る水に夢中になった犬だけがいる空間。このかゆいところに手が届かないような不快感をリンチはうまく感じさせています。

    異質さの演出

    映画のラストで、頭を打たれた黄色い服の男性が立っています。銃で撃たれた人は倒れるというのが映画の典型です。しかし立っていることによって、この映画の異質な雰囲気がより際立ちます。

    まとめ

    ブルーベルベットは間違いなく人を選ぶ映画だと思います。変態なシーンが多いので敬遠する人もたくさんいるでしょう。それでも評価が高い理由は、その奇妙さの裏にある知性と、日常と非日常のギャップの演出、理性的な側面をもったリンチだからこそ成り立ったのだと思います。リンチの一見安っぽく見えるシュールな演出が面白いと感じれる人は、深く楽しめる映画だと思います。

  • 映画レビュー #3「激突!」-巨匠の過小評価されたデビュー作

    今回レビューするのはスティーヴン・スピルバーグ監督の初期の作品「激突!」です。1971年にアメリカでテレビ映画として制作され、その完成度の高さから日本でも劇場公開された作品です。スピルバーグのパニック映画は世間的にはジョーズの方が評価が高いことは知っていますが、私はジョーズと同じくらいこの映画が好きです。

    パニック映画としての激突!

    怪物や怪獣は一切登場しません。ただのトラックです。それでもこの映画はパニック映画だと思っています。そう感じさせるのは低予算ながらも若きスピルバーグの才能のおかげでしょう。

    主人公がはじめてトラックに遭遇するシーンが特に印象的です。ただトラックを映すのではなく、トラックから出る謎の蒸気とそれにせき込む主人公、アップで映る激しく回る大きなタイヤ、静かだった砂漠に響き渡るトラックの重たい音。低予算ながらも観客を楽しませたいというスピルバーグの意志がここから感じ取れます。

    私は名巨匠の初期作品を見るのが好きですが、「激突!」は特に若き才能を感じました。

    緊張感を煽るオープニング

    オープニングもこだわっていて好きです。最初は人が多い大都会からスタートしますが、徐々に交通量が減っていき、ついには主人公の車と大型トラックだけになっていく。その過程で不穏な空気が静かに積み上がっていきます。まったく無駄がありません。

    主人公の設定

    主人公がちょっと荒っぽくて人当たりがあまりよくないという設定も面白いです。完全な善人ではないからこそ、より救いようのない閉塞感が生まれています。

    まとめ

    激突!は低予算のテレビ映画でありながら、若いころのスピルバーグの才能が凝縮された作品です。派手な特撮も怪物もありません。それでもただのトラックが怪獣に見えてきます。

  • 映画レビュー #2「パリテキサス」-あらゆる面で美しい

    今回レビューするのは「パリ・テキサス」です。1984年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した作品で、ドイツの映画監督ヴィム・ヴェンダースの代表作の一つです。特別な撮影技法というよりも、風景と人間の感情が詩のように重なり合っている。この映画が名作と呼ばれる理由はそこにあると思っています。私がいいなと感じたいくつかの点に着目してレビューをします。

    映画全体が絵になる美しさ

    まず映画全体が美しいです。どのシーンも絵になります。荒れ果てたモーテル、広大な砂漠、入り組んだ高速道路。ドイツ人監督がずっと憧れていたアメリカの風景なんでしょうね。私もこの風景に見入りました。スローなテンポも相まって、見ていてうっとりします。

    主人公トラヴィスという名前

    主人公の名前トラヴィスは、交差点や曲がり角の近くに住む人、通行料の徴収人を指す職業姓だそうです。ロードムービーの主人公の名前としてこれ以上ないくらいぴったりな名前だと思いました。トラヴィスという名前が使われた他のロードムービーとしてタクシードライバーも挙げられますね。悩みを抱えたドライバーの男性という点ではパリテキサスと類似していますね。

    自己のアイデンティティーを追求する旅

    この物語は、過去の恋人が忘れられない主人公が、元恋人と再会しようとして自分のアイデンティティーを取り戻そうとする話です。車で旅をしながら自己を追求するというコンセプトがとても好きです。誰しもが一度は考えたことのある悩みなので、共感できる人は多いでしょう。

    スマートフォンもインターネットも存在しない時代だからこそ、探していた人と巡り会ったときの感動はより大きかったはずです。

    ラストシーンで感じた違和感

    一点だけ正直に書くと、ラストで元恋人とガラス越しに再会するシーンで私の頭の中と主人公の考えに違いがあるように感じてしまい、一瞬だけ映画から気持ちが離れてしまいました。私が未熟だったのか、それともヴェンダースの意図と私の感覚が合わなかっただけなのか。ですが映画としての価値を下げるような欠点ではないと思っています。むしろそれまで映画の世界に完全に入り込むことができたからこそ生じた違和感だと思っています。否定的な意見ではありますが、私の正直な感想として書き残しておきます。

    技術的ではなく詩的な映画

    この映画は特別な撮影技法はあまり使われていませんでした。それでもこの映画を傑作にしているのは、家族愛、美しい風景、車と旅、誠実だけれど欠点もある主人公の人間性だと思っています。

    ヴェンダースは小津安二郎を崇拝していることで知られています。その影響からか、映画全体に穏やかさが漂っています。技術的な映画ではなく詩的な映画と感じたのはそういう理由からです。

    まとめ

    パリ・テキサスは派手さのない映画ですが、見終わった後にじわじわと残るものがあります。ただ正直に言うと、主人公の感情に共感できない人やその風景を特別美しいと感じない人にとっては、長く退屈に感じる映画でもあると思います。しかし、美しい風景と穏やかなストーリー展開に、誰もが抱えたことのある孤独と家族への思いがしっかり描かれています。これらが好きな人にとっては比類のない映画になると思います。

  • 映画レビュー #1「花様年華」-教科書のような映画

    今回はこのブログで最初となる、一つの映画をレビューする記事です。ウォン・カーウァイ監督の『花様年華』の鑑賞記録を書きます。この映画は英国映画協会が2022年に発表した史上最高の映画ランキングで5位に選ばれた作品です。

    1962年の香港を舞台に、隣同士に住む男女の秘めた感情を描いた作品です。ストーリーとしては規模が小さく、知り合いにはどう見ればいいのかわからなかったという人もいました。恋愛映画を楽しみたいと思っていざ鑑賞するとなると何か腑に落ちないという結果になると思います。私はこの映画を「映画愛好家向けの映画」だと思っています。ストーリーをどう感じるかではなく、映画としての遊び心が詰まった映画の教科書のような作品です。今回は私がこの映画でいいなと思ったいくつかの演出を紹介します。

    言葉ではなく映像で語る二人の演技

    この映画が成立している最大の理由の一つはトニー・レオンとマギー・チャンの演技です。台詞で感情を説明するのではなく、表情や仕草、視線だけで二人の複雑な感情が伝わってきます。言葉ではなく映像で語るという映画の理想が、二人の演技によって実現されています。

    音楽と歌詞が語る心の揺れ

    音楽のチョイスも見事です。特に印象的なのが、映画内のラジオから曲が流れるシーンです。夫婦の様子をうたったその歌詞が、ストーリー上の二人の心の揺れを見事に表現しています。一緒になりたい気持ち、複雑な事情で一緒にいられない寂しさ、恋人にそっぽを向かれている虚しさ。歌詞とたった一つの壁に隔てられた二人の場面でその全てがひしひしと伝わってきます。見ていて苦しくなりますが、そういう細かな演出を見ることが好きな私にとって、たまらなく面白いです。

    電話が生む緊張感

    この映画では電話がよく使われます。電話相手が誰だかわからない状態でストーリーが進んだり、電話を三回鳴らすというちょっとした日常的な行動にも「どうなるのだろう」という緊張感が生まれます。説明しない演出がここでも効いています。

    スローモーションの使い方

    スローモーションの使い方も印象的です。特に心に残ったのは、トニーがマギーの手を離した瞬間にほんのわずかスローがかかる場面です。おそらく何フレームかずらしたレイヤーを重ねた映像だと思いますが、その一瞬に寂しさが凝縮されています。ウォンは別作品でもこの演出をよく使っています。

    まとめ

    花様年華はストーリーよりも映画としての演出を楽しむ映画愛好家向けの作品です。今回紹介した演出の他にもたくさんの工夫が見受けられます。最初は地味に感じるかもしれませんが、演技と音楽と映像が重なる瞬間に、この映画にしかない緊張感が生まれます。ウォンによる他の作品では見かけない細かな演出が多くの批評家や映画監督に影響を与えているのも頷けます。私もこの映画が大好きで、史上最高の映画のベスト100に入ることに納得しています。それにしても長い映画歴史から見て、比較的新しい映画である本作が5位に位置づけられるのはすごいですね。映画全体を通してこれほど繊細な遊び心を感じられる映画はなかなか見ないので、ぜひ見てほしい一本です。

  • 私が好きな演出。時間経過の表現について

    映画で時間経過を表現するとき、「3年後」などとテロップを表示して時間経過を表しているのをよく見かけます。もちろんその方法でも違和感なく映画を見続けることができます。でも私が好きなのは、そういったテロップを使わずに映像で時間の流れを感じさせてくれる映画です。

    この記事では、私のお気に入りの時間経過を表現した演出をいくつかご紹介します。

    タイムラプスで時間を語る

    ウォン・カーウァイの「ブエノスアイレス」では、主人公が孤独の日々を過ごす場面で、街を固定カメラでタイムラプス撮影することで時間の経過を表現しているシーンがあります。「何年後」というテロップはありません。そのシーンを見ていた私は、朝から夜になるまでの太陽の動きや道路上を走る大量の車の流れ、その映像だけで長い時間が経過したことを自然に感じ取れました。タイムラプスで取った映像があるだけでスタイリッシュに見え、ウォンカーウァイの世界観にマッチしたとってもいい演出だと思います。

    デヴィッド・フィンチャーの「ゾディアック」でも同様にタイムラプスを使って時間経過を表現するシーンがあります。実際の未解決事件を題材にしたこの映画では、捜査が行き詰まり何年もの時間が過ぎていく重さを、ビルが建設されている様子をタイムラプス撮影することで表現しています。余談ですが、このビルが建設されるシーンは実際に建設されるところを撮影したのではなく、CGを使って映像化をしたそうです。制作人のこだわりを感じます。

    説明せずに時間を感じさせる

    他にも時間経過を映像で演出させたよい例として「ムーンライト」が挙げられます。

    「ムーンライト」はタイムラプスを使いませんが、時間経過の表現として非常に印象的な場面があります。

    章が変わり新しい場面になると、見知らぬ男性がタイマーで目を覚まします。その後、その男の母からの電話がかかってきて初めて私たち観客はこの人物が主人公だと気づきます。それと同時に、変わり果てた肉体や母の言葉使いや心情の変化から、時間が経ち多くのことが変わったことを一気に感じ取れます。

    まとめ

    テロップで表示するのは親切かもしれません。でも映画って映像で届けることが何より大切だと私は思います。テロップやナレーションに頼らずに映像で工夫しているシーンはやっぱり一味違う良さがあるなと私は思います。

  • 映画におけるオープニングの役割と重要性

    私は映画を鑑賞するときに大好きな時間があります。それが最初に流れるオープニング、タイトルや制作スタッフの名前が映像や音楽とともに流れるあの時間です。

    映画館に入って突然その映画が始まるのも悪くないですが、オープニングがあることで世界観に没頭するための事前準備ができます。水泳における準備体操のようなイメージです。どんな映画なのか、作品の力量を測る指標にもなりえると思っています。

    オープニングの役割

    良いオープニングはその映画の雰囲気をそのまま伝えてくれます。

    特に印象的なのがヒッチコックの「めまい」と「ツインピークス」シリーズです。この二つに共通しているのは、音楽と映像が世界観の雰囲気に完全にマッチしていて、観客に準備するための十分な時間を与えてくれているところです。

    「めまい」のオープニングは不安感がありながら、これから何かが起こるんだという壮大さも感じ取れます。反対にツインピークスは、少し不気味でありながら、自然の映像を背景にどこか懐かしい音楽が流れます。初めて聴くはずなのに、昔テレビで流れていたような既視感がある。その不思議な感覚がそのままツインピークスという作品の雰囲気を表しています。

    また、映画館の音響で見るとオープニングの重要性がより一層わかります。大きなスクリーンと音響の中でオープニングが流れると、日常から切り離されてその映画の世界に入っていく感覚があります。

    オープニングがないことが効果的な作品もある

    ただ、オープニングは必須ではありません。

    オープニングがあることで逆に創作物っぽさが出てしまう作品もあります。例えば「美しき仕事」や「ジャンヌ・ディエルマン」のような作品です。ジャンヌ・ディエルマンには青い背景に制作に携わった数名の名前が入っているだけで、華やかな演出は一切ありません。でもそれがあの映画の世界観に合っている。

    ドキュメンタリーのようなスタイルで作られた映画にとって、派手なオープニングはむしろ邪魔になることもあるのです。

    まとめ

    オープニングはその映画への入口です。次に映画を見るとき、オープニングに少し意識を向けてみてください。その映画が何を伝えようとしているのか、最初の数分で感じ取れるものがあるはずです。

  • 映画の扉へようこそ

    映画って本当にいいですよね。

    映像で観客を多様な方向から楽しませる。ストーリーが面白い。こだわりを見つけるのが楽しい。新しい価値観を知る。考えを共有できる。

    このブログ「映画の扉」では、私が好きな映画や監督、印象に残った演出について書いています。映画好きの人にも、これから映画を見てみたいという人にも、読んでいただけると嬉しいです。

    映画を見て感じることに正解はありません。気軽に読んでいってください。